
2025.07.11
テレワークの減少と生成AIの普及で、時間管理はどう変わる?
コロナ禍が落ち着きを見せ、令和5年5月8日から「5類感染症」になり、丸2年が経過しましたが、働き方に変化は生まれているのでしょうか。
ここ数年の働き方に関しての大きなテーマは、テレワークとAI活用でしょう。「第2回デジタル経済・社会に関する就業者実態調査(速報):大久保敏弘・NIRA 総合研究開発機構(2025) 」では、このテーマについて調査結果が公表されています。この調査結果をもとに、2024年12月現在でのテレワークの実態、生成AIの使用実態について紹介します。
テレワークでも生産性が維持できると思うのは16%
調査結果によれば、2023年3月の時点で、全国のテレワーク利用率が13%に対して2024年12月のテレワーク利用率も13%、東京圏のテレワーク利用率は2023年3月が23%に対して2024年12月のテレワーク利用率は21%と、東京圏が多少下がったといえ大きな変化はなく、「5類感染症」以降になっても、少しずつオフィス回帰という現象のようです。2021年前半のコロナ禍のピーク時においても、全国のテレワーク利用率は17%ですから、もともと、それほどテレワークは日本に根付かなかったというのが実態だったのかもしれません。
面白いのは、「テレワークの利用によって仕事の効率性を維持できる」の質問に対して「あてはまる、ややあてはまる」と答えた人は、2021年9月の15%から2024年12月は16%、「ややあてはまらない、あてはまらない」と答えた人は、2021年9月の47%から2024年12月は45%と大きな変化はなく、相変わらず、テレワークでは効率は維持できないと考える人が半数近くいるようです。(確かに、この16%という数値は、現在のテレワーク利用率と近い数字になっています)
さらに、「自然災害時には、勤め先からテレワークの利用が推奨されている」の質問に対しては、「あてはまる、ややあてはまる」と答えた人は、2021年9月の15%から2024年12月は17%、「ややあてはまらない、あてはまらない」と答えた人は、2021年9月の48%から2024年12月は50%と、自然災害が起きているにもかかわらず、企業側はテレワークを推奨しないという実態が見えてきます。
コロナ禍でテレワークが普及し始めた当時は、必ずしもオフィスで働く必要はない、といった意見も多く、ライフバランスや自分の時間を尊重する働き方がもてはやされた時期もありましたが、ここへきて、テレワークの意義を感じている人は7人に1人という実態のようです。それどころか、企業側は災害があってもテレワークを認めないという状況のようで、これではいくら個人がテレワークの良さを訴えたところで、日本の「出社文化」は盤石のようです。
「テレワークの利用によって仕事の効率性を維持できる」の質問は個人の感想、「自然災害時には、勤め先からテレワークの利用が推奨されている」の質問は、企業の対応を聞いていますが、不思議と結果は同じような数値になっています。日本のビジネス・パーソンの意識は、相当な部分、企業意識と近い数字になっており、会社側の意図が個人の意識として反映されているようです。
この状況を時間管理の観点から考えてみると、通勤時間という明らかに生産性の上がらない時間があるにもかかわらず、社内外でのリアルなコミュニケーションは、一人で働いたり、オンラインツールを活用してミーティングを行ったりすることよりも、はるかに生産性が上がると企業側は判断したということなのでしょう。
労務管理などの事情もあるかもしれませんが、どちらかというと、タスク管理など個人の業務にフォーカスしがちな個人の時間管理においても、「チームで働く」という意識、タスク管理を行う必要がありそうです。
生成AIで時間管理はどう変わるか
この調査結果では、生成AIの使用に関するデータも紹介しています。定期的に仕事で生成AIを利用している人に対して、用途を聞いた質問では、2023年10 月時点と比較すると、情報収集や文章生成、要約、校正という用途での利用が増加しているとしています。
また同様に、「生成AIによって仕事の効率は変化したか」と聞いた質問では、77%が「効率向上」と回答していますが、2023 年10月が64%だったことを考えれば、まだまだ生成AIを十分に使いこなしているとはいえないようです。実際に、生成AIの利用用途を聞いている質問では、「情報収集・検索」、「文章生成」、「文章要約」、「文章校正・編集」が多く、機械的な作業の代替として活用している人が多数のようです。
生成AIと生産性の関係にしても、意見はさまざまです。単純作業だけではなく、これまで膨大な時間を要していた作業が10分の1になったという意見もあれば、人が考える能力が落ちてしまい、生産性を付加価値というならば、人の能力は明らかに落ちるという人もいます。
生成AIと時間管理の問題は、今後大きなテーマになりそうです。時間管理を効率性の追求と考えるならば、生成AIを活用することは、必須になっていくでしょう。
しかし、過去の経験から考えても、IT化によって仕事のスピードが上がったにもかかわらず、人の作業量はむしろ増え、アウトプットの量は増えても、必ずしもクオリティは上がっていないという意見もあります。生産性が付加価値とすれば、これは大きな問題です。実際、ここ数十年、日本のGDPは上がっていません。
いずれは、生成AIが、人生の重大な岐路における選択肢についてもアドバイスをするような時代になるのかもしれませんが、時間管理を効率性の追求だけではなく、豊かな人生を築くためのプロセスづくりだと考えるならば、生成AIを活用しながらも、自分自身の成長と豊かな人生のための選択ができるようなプランニング・プロセスを自分の中に確立したいものです。
(出典)大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2025)「第2回デジタル経済・社会に関する就業者実態調査(速報)」